アカデミックプラザ
チョウザメの乾式熟成加工 (Dry-Aging Processing of Sturgeon)
テーマ
鮮度保持
研究機関名
National Taiwan Ocean University
代表者名
Hsiuming LIU
発表概要文
魚類は極めて腐敗しやすく、新鮮な魚片は微生物の増殖や内因性の生化学的反応の影響を受け、品質の劣化および保存期間の短縮を招く。この過程で、魚肉中のイノシン酸 (IMP) が分解され、イノシンやヒポキサンチン (Hx) の蓄積が進み、新鮮度が低下する。近年、熟成技術が水産加工に応用されるようになり、特に乾式熟成は肉の風味や食感を向上させることが報告されている。しかし、熟成庫の高コストが普及の障壁となっている。 本研究では、多価アルコール溶液を用いた湿度調整法による乾式熟成を適用し、魚肉の旨味および質感の向上を目的とした。チョウザメを対象に、熟成後の新鮮度や生菌数を測定し、電子舌を用いた風味変化の評価を実施した。温湿度測定の結果、多価アルコール溶液により相対湿度を72±2%に制御可能であり、特にプロピレングリコール群が安定性を示した。 熟成後の色調分析では、b値が全群で増加し、熟成が進むにつれ魚肉が黄色味を帯びることが確認された。L値は恒温恒湿群で有意に低下したが、プロピレングリコールおよびグリセロール群では大きな変化は見られなかった。テクスチャー評価では、硬度が825.93 N/cm²から152.15 N/cm²へと有意に低下し、肉質の弾力性も減少した。特に恒温恒湿群では表面硬化が観察され、タンパク質の加水分解に伴う軟化と乾燥による硬殻形成が同時に進行したと考えられる。 鮮度評価では、総生菌数 (TVC) および揮発性塩基態窒素 (TVB-N) の増加が確認された。プロピレングリコールおよびグリセロール群では、熟成日数の増加に伴いTVCが増加し、線形回帰分析の結果、熟成10日目にTVCが許容上限値である log 6.4 CFU/ml に達すると推定された。一方、恒温恒湿群では含水量の低下による表面硬化が微生物増殖を抑制し、他群よりTVCの増加速度が低かった。TVB-Nは熟成開始から6日間は緩やかに増加し、新鮮な状態 (14.75 mg/100g) を維持していたが、12日目には40 mg/100g を超え、腐敗が進行していることが確認された。 電子舌による風味評価では、熟成8日目において旨味の知覚が閾値に達し、風味の豊かさも向上することが示された。以上の結果より、多価アルコール溶液を用いた湿度調整法による乾式熟成は、魚肉の風味および食感の改善に有効な手法であると考えられる。