アカデミックプラザ
貝殻を利用した希少糖・カルシウム含有食品素材の開発
テーマ
機能性食品
研究機関名
大阪公立大学大学院 農学研究科 生命機能化学専攻 食品素材化学研究グループ
代表者名
渡邉 義之
発表概要文
高齢者のフレイルは身体的に弱っていく状態を指し、社会問題化している。そこには高齢者の病院や介護施設での滞在期間の延長による医療リソースの負担増があり、高齢者の自立性や生活の質を低下させている。その根本的解決策は、疾病に至らないための食生活の確立と、食事を通じた健康管理にある。フレイルの主因は栄養不足、慢性疾患、認知機能の低下等であり、栄養面での対策はフレイル予防の一つの方策になる。高齢者は骨粗鬆症罹患のリスクが高く、骨折により要介護状態になると状況が悪化する。その回避には十分量のカルシウム摂取が必要であるが、カルシウム摂取量は男女ともに基準より少ない。この不足分を食事で充足するには、例えば牛乳を追加で飲むなど、高齢者にとって食事上の負担となる。したがって、より摂取しやすく、吸収のよい形態でのカルシウム供給が必要となる。 自然界での存在量が少ない糖類は希少糖と総称され、種々の生理機能が報告されており、フレイルのリスクを低減する可能性がある。希少糖の1つであるラクツロースには慢性便秘や腸内環境の改善、さらにカルシウムの腸管吸収を促進する効果が認められており、他の希少糖についても種々の生理機能が報告されつつある。それゆえ、各種希少糖とカルシウムの混合物は高齢者のフレイル予防とQOL改善に寄与すると期待される。 希少糖の製造には酵素法が使用されており、特異的な生成物の取得が達成されるため精製工程に威力を発揮するものの、コストの高さに課題がある。発表者らは、亜臨界水処理やマイクロ波加熱処理により、貝殻と各種糖類から希少糖と水溶性カルシウム塩の双方を含む混液を1工程で得る技術を開発した。これによりラクトースからラクツロース含有カルシウム素材が得られ、製造コストを抑えるのみでなく、可溶性カルシウムの生成など、複数の有用物質を同時に取得することが可能となる。本研究では、未利用な食料資源(乳清や規格外穀物由来の水飴など)と反応場を形成するために必要な生物資源(種々の貝殻)を使用して、健康志向にニーズに沿った製品の開発を目指している。よって、余剰産物の低減による環境保全と新規価値の創造という側面を持つ。また、製造工程の加熱時間は非常に短く、生産効率が高い。